この日のことは、きっと忘れることがないだろう。2011年3月11日金曜日。
 まだ、名残雪のようにちらちらと雪が降る中、出勤。午前3時起きということで、大きな欠伸をしながら運転していた。
 峠にさしかかり、坂を上りはじめると前方から1台の軽ワゴンが。ブレーキを踏み止まる。相手もブレーキを踏んだようだが、ブレーキロックオン。突然すべりおちてくる。「やばい!」と感じたので、Rに入れ替え、バックをはじめる。どんどん迫ってくる。後ろも見ずにバックを続けるが、「あっ、ぶつかる。」と思った瞬間、車の横をすりぬけていく。「助かった。」とおもった次の瞬間「ドン。」と音がする。川に横転していた。
「大丈夫ですか。」「はい。」という声が聞こえる。少し安心する。しかし、姿が見えない。「警察に電話しますよ。」慌てて携帯電話を取り出すが、震えて出てこない。110を何度押してもつながらない。電波がとどいていないのだ。通行の邪魔にならないように、バックする。胸ははちきれんばかりの音をたてる。かなりバックしてから、走って現地にもどる。向かい側からこれも軽車両がやってくる。手を振って止め、応援を依頼する。
 すると、むくっとドアが開き、中から顔を出す。泣きたいくらいにほっとする。
「出てこれますか。」「これをもってくれればでれます。」弁当と水筒を手渡しされる。
「けがはなしですか。」「警察に連絡しましょうか。」
「だいじょうぶです。くるまはだいじょうぶですか。」
反対に私のことを心配してもらう。
 名前を名乗り、引き返す。先ほど止まっていただいた方にどこの人か教えてもらい、途中名前を聞いて出勤。すぐにその家を訪問する。
 しかし、本当に恐ろしいことは、このことではなかった。

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